2018年12月14日金曜日

みんながやっているから。

ベトナムのマネジャーたちにチームマネジメントの研修を行い、その反応ぶりに感心したのは今年の夏。現地の社長から目に見えて組織の効果が向上したと聞き、いくらかは役立てただろうと喜んでいます。

それ以上に日本のマネジャーのことが心配。
彼の国ではみんな習ったことを早速実践し、試行錯誤して自分のものにしていきます。この夏、昨年からの進展ぶりに驚いたものです。
それに対して、日本のマネジャーで研修で聞いた話をすぐに実践する人は、必ずしも多くないんですよ。ベトナムよりもずっと少ない。
たとえ権威のある先生の話でも、日本のマネジャーは鵜呑みにしません。人事で研修を仕切っていた時に見てきた経験からはそう思います。例えば、ある大学教授から「みんな(マネジャーたち)が真剣に学ばない」とクレームがあって、研究室に作戦を立てに行ったことがあります。

変化の閾値はどの辺りでしょう。
研修内容の良し悪しを判断してなのか…。あまり関係ないかもしれません。
私の感覚では「同僚の3分の1ぐらいが何かやっている」と察知した時に、ようやくざわざわしてきて、半分ぐらいになると突然変わる。そんな感じです。みんなが動くまでは待っているんです。結果動き出しが遅い。(変化が遅いのは企業が社員研修、特に管理職に研修の投資をしない理由になっている)日本の多くのマネジャーにとって学びの最大の動機は、みんながやるから!?

ベトナムのマネジャーたちは、変化を起こすために学びが必要だからと考えています。でも日本では、みんながやるからやる、という人が多い。

それゆえに、現場に変化を起こしたいと考える講師にも「影響力の法則」が必要なんです。影響力を発揮して行動に移させなければなりません。そのとき役立つカレンシーは、「みんなやっていますよ」だったりします。実際、そう言っている人は多いと思います。


ベトナムからは来年もやって、と依頼されています。来年もベトナムは楽しみだな。でもきっと日本のことがもっと心配になるだろうな。

注 変化の閾値は、個人差、会社による個体差、その状況による差があります。研修がつまらないこともあります。

2018年12月12日水曜日

求めること

影響力を発揮できるかどうかは、そもそも求めるもの、求めることが明確であるのが前提です。不明確なときは、影響力もどこかインパクトが弱いままです。

ある会社のマネジャーたちと話していて、多くが部下に何を求めたいのかはっきりしていない。漫然と部下が努力することを要求している。おそらく部下は、何かよく分からなくて混乱している。これでは、上司は部下に地位の力を誇示しているだけ、と言われても仕方ありません。ひどいときは、パワハラになってしまう。

今、ビジネスの環境は厳しさを増しているから、組織はより戦略的でなければなりません。そのなかで、上司は過去の延長線上にない取り組みを、部下に求めているはずです。その方向性が示されなければ、影響力は発揮されない。これは、お客に対しても同じこと。これまでの取引を越えた取り組みを求めるから、影響力が必要なんです。

誰に何を求めますか?

2018年11月29日木曜日

「文句も言うけど、仕事はこなすね」

 昨日の新聞記事です。37歳まで浪人で、妻の失業を機に初めて就職。その後上場企業の役員になったという、シンデレラストーリーならぬ、失礼ながら浪人物語です。

 私が注目したのは、社長から言われたひと言です。

 「おまえは文句も言うけど、やるべき仕事はこなすね」

 「文句」が何を指しているかわからないですが、おそらく「正論」でしょう。この人は正しいことを言うのだと思います。でもいうだけではない。みんながやりたがらない仕事で利益を出すなど、会社との約束を果たしてきた。だから、信頼された。

 会社員のなかには、「正論」はいうけれども、いざというときにやらない人がいる。なかにはそのまま社長になってしまう人もいる。でもこの人は、先入観がない分自由に動き回ってきたのでしょう。

 これは見事な交換だと思いました。


2018年11月21日水曜日

リーダーの不正

 日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏が、東京地検特捜部に逮捕されました。私も自動車業界にいたので、彼のリーダーシップには大いに関心を寄せており、思わぬ結末に驚いています。つい先週も、某所で(久しぶりに)ゴーン氏のリーダーシップについて考察を述べてきたばかりで、私の話の説得力も失われたことでしょう。残念‥

 事実はこれから明るみになると期待しますので言及しませんが、今思うことを少しだけ。それは、ゴーン氏が強欲だといったように彼のパーソナリティに原因を帰属するのは、ちょっと違うなと。

 彼が過去20年間で会社に数兆円の利益をもたらしたリーダーであるという事実は否定できません。会社は販売台数を2倍以上に拡大、売上げも、従業員数も大きく増やしています。彼のリーダーシップのおかげで、ステークホルダーは多くの利益を得られた。労働組合だって数年間満額賃上げを得てきたのです。

 でも私はここに落とし穴があると思います。本人は自分の成果が、ステークホルダーに利益をもたらしてきたと自負しているはずです。多くの関係者に「私はカレンシーを渡してきた」と、おそらく部外者が考える以上に強く感じていたはずです。だとしたら、「私は多くのリターンを得るべきである」と考えるのは自然です。交換の法則が働くからです。そこに、耳元で都合のよいことをささやく“側近”(アメリカ人の代表取締役?)が現れると、良心など簡単に吹っ飛んでしまう。「与えてきたんだから、自由にさせてくれてもいいじゃないか」という奢りがでてくる。

 古典を見ると、成功したリーダーは堕落して死ぬか、国王に殺されるかのどちらかが多いですね。リーダーシップ研究の第一人者ロナルド・ハイフェッツは、リーダーはよいことをしたら、適当なタイミングでその座を降りなければならない、さもなければ殺されると言っています。(今回の場合、社会的に抹殺されるということになるのでしょうか)

 成功自体がリーダーの罠なんだと、あらためて感じます。でも進まなければならない。リーダーシップが旅に喩えられるのは、こういうジレンマにいつも直面するからなのでしょう。

2018年9月11日火曜日

パワハラのネガティブな結末

 先日ある会社のマネジャーたちにインタビューする機会がありました。その会社は決して年功序列、というわけではなく、力があれば若くしてマネジャーになれます。なかなかの人物たちに会えたのは収穫でした。

 ところが、相次いで聞かされた彼らの苦労話には、改めて考えさせられました。それは「年上の錆びついたマネジャー」のことです。業績不振はもちろんのこと、上司に報告・相談しない、勝手に決める、お客の話を聞かない、嘘をつく、など“問題行動”も枚挙にいとまがありません。彼らの仕事が期待を大きく下まわっているので、上司は彼らの仕事を代わってやっている。彼らが帰宅したあとも、上司たちはその仕事をやり直しているというのです。マネジャーたちは疲れ切っていました。

 何が原因でそんなことになっているのでしょう。もちろん長年上司やお客さん任せの仕事をしてきたから、スキルも期待された水準ではないと思います。失敗するぐらいだったらやらない、と考えているようでもあります。そんななかで、上司のパワハラがきっかけになっていたケースがありました。結果が出ないこと、すっぽかしなどを上司から罵倒され続けたというのです。それ以来、心を閉ざすようになったと思う、と深刻に語るマネジャーの話を聞き、私は「ああ、ネガティブなカレンシーの蓄積は、次世代まで続くんだな」と感慨深い思いをしました。やはりそうなんだなって。

 パワハラはネガティブなカレンシーになります。その帳尻を合わせるのには、当事者はネガティブなカレンシーで返すしかない。大きなカレンシーに対してはいつまでもネガティブか、あるいは大きなネガティブカレンシーで返すことになります。前者の場合は、これが末代まで続く(んじゃないか)と思うほど、長く続くこともあります(中東地域の緊張関係は旧約聖書のころから、つまり2000年以上続いています)。

 このケースの場合は、サボタージュや低業績という形で、ネガティブカレンシーを会社に返しているということでしょう。これがあと10年続くと思ったら、マネジャーとしては穏やかではありません。
 会社にとっても悪い影響はおよぶはず。もしパワハラ被害者が大勢いる組織だったらどうなるでしょう。将来にわたって、業績が低下していくのが想像できます。

 パワハラをやめるのは、将来への備えという面もある、そう確信しました。即やめましょう!

2018年9月4日火曜日

ハイチとドミニカ、2つの国の大きな違い

 ジャレド・ダイヤモンド著「ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか」(2010, 『歴史は実験できるのか』慶應義塾大学出版局2018所収)はおもしろかった。2つの国とはハイチとドミニカです。
 写真を見てください。
左右のどちらに緑が多いか、右でしょう?右がドミニカ、左がハイチです。ご存じのようにハイチは世界最貧国のひとつです(ひとりあたりGDPは820ドル)。国家は水、電気、下水処理、教育といった基本的なサービスを国民に提供できません。東日本大震災の前年、ハイチも大地震に見舞われましたが、政府機関の建物の多くが倒壊したために、未だに復旧ほど遠い状態です。対してドミニカは、まだ発展途上にあるとは言え(ひとりあたりGDPは5900ドル)、ひとりあたりの平均収入はハイチの6倍。アボカドの生産は世界第3位。森林の28%が保存されており、世界で最も自然保護が進んだ国のひとつだそうです。驚きました。野球が盛んでメジャーリーガーを多く輩出しています。
 両国を比較すると、人口はどちらも1000万人強とそれほど違いませんが、ハイチの労働者の数はドミニカの五分の一、車の保有台数も五分の一、高等教育を受けた国民七分の一、医者の数は八分の一、ひとりあたりの医療費は十七分の一、エイズやマラリアの罹患者数はハイチが数倍多いなど、大きな差がついています。
 19世紀まではむしろハイチの方が豊かでした。ハイチがドミニカを支配していたときもあります。ところが、フランス、イギリスの植民地から解放されたあとが異なります。20世紀、どちらの国も独裁者が支配します。ドミニカの支配者は、実は強欲で自分の私腹を肥やすことにしか興味がありませんでした、財産を殖やすためなら、ためならどんな手段でもとります。海外からの助言や投資を拒むこともありませんでした。そのなかに、森林資源を勝手に荒らされないための取り組みもありました。スウェーデンから森林保護の専門家を招いてさえいます。森林資源をコントロールするためです。明らかに自分の利益のため。でもこういうことが結果的にはよかったんですね。ドミニカの国民福祉は世界の平均よりは下回っているかもしれないけれども、最悪ではない。対してハイチの独裁者は、無制限に開発を許してしまいます。それで国土が一面丸坊主になってしまった。結果、洪水は起こる、高潮にやられるなど、大きな自然災害の問題が今でも続いているのだそうです。国民はずっと苦難を強いられています。
 もともとどちらの国も奴隷貿易の中継地点でしたが、ハイチの方が奴隷貿易では稼いでいました。それがハイチの不幸です。宗主国のフランスが撤退したあと、無法地帯になってしまいます。英語やフランス語を話せる人も少ない(独自のクオール語が発展)。そのうえ、植民地時代に何度もヨーロッパ人に騙されてきたという思いがあるために、海外からの投資や助言を受け入れなかった。
 言葉の問題、歴史的な経緯から、海外からの「影響を受けなかった」ことが、結果的に国土を荒廃させ、国民を貧しくしてきたハイチ。現在では産業もなく国際社会での影響力は気の毒なほど弱くなっています。対して私利私欲のためとはいえ、外部からの影響を受けてきたドミニカ。少なくともベースボールの世界では超一流、影響力を獲得してきたようです。両者の関係は200年を経て逆転、さらに拡大しています。
 関係構築にかたくなな姿勢は、結局繁栄にはつながらないようです。興味深いところです。

2018年8月5日日曜日

確認しても変わらない

「クライエントとなんの話をするのですか?」
と伺うと、
「◯◯の確認をします」
という答えが、複数のエンジニアから相次いで帰ってきました。
何人もそういうので、聞き直してしまいました。
「え、確認?」

何を確認するというのでしょうか?
確認するのは、決まったことだけ。決まったことに対してできることは、リソースの提供ぐらいです。使えるカレンシーはごく限られてしまう。
それでは「下請け」的な仕事になるのが避けられないと思います。

影響力を発揮できるのは、相手が望むことに「触れた」ときです。
あなたが相手の望みに耳を傾けた結果、
「あ、この人はわかってくれた。この人と一緒に取り組めば、本当にやりたいことができるかもしれない」
と感じたときに、相手は動くのです。
だから、何を望むのか、とことん腹を割って話したほうがいい。事実、影響力を発揮する人は、そうしています。

せっかく、IoTや自動運転などテクノロジーで世の中を変えるチャンスなんですから。
クライエント側がやりたいこと、達成したいこと、悩んでいることを理解して、
「私に任せてください!それ、ご一緒に実現しましょう」
といったときに、人は動きます。

現場のリーダー、エンジニアのみなさんには、あなたの力で、世の中変えられますよ、頑張って!、とエールを送りたいです。

2018年6月10日日曜日

ちょっとほめる

 ほめられると嬉しいものです。
 今日乗ったタクシーの運転手といくらか話を交わしたあとに尋ねた。
「ところで、運転手さんどこですか?」
どこですか?とは曖昧な質問です。話の流れからすると「どこに住んでますか?」という質問だったのだけれども、50ぐらいと思しき男の運転手は、
「鹿児島です」
と答えました。
「東陽町です」とか「大井町です」という答えを予想していたのに、裏切られました。どこに住んでるか、ではなく、どこの出身か?で答えてきたのです。

鹿児島!
今年の春に初めて訪ねて、とてもいい印象を持った街です。天文台の印象や、桜島の感想など率直に述べました。するとやはり彼は郷土に誇りがある。得意げに説明してくれる。
「ご維新が起こるところだとわかりましたよ」
と言ったら、とても喜んでいました。

そうして、目的地の200mぐらい前で、「支払」のスイッチを入れてくれたのです。(つまり100円ぐらいまけてくれた)

これでお互いに楽しい午後を過ごせたんじゃないかな。。

2018年5月16日水曜日

影響力と忖度

 顧客の影響力が十分でないと、決まるものも決まらない。上長の承認を得られないからです。そこで、顧客が影響力を発揮できるように知恵を授ける。例えば、成功ストーリーを話してあげる。これがカレンシーになります。

 カレンシーの交換(影響力の法則)では、相手の立場に立つことを重要と考えます。では忖度と何が違うのか。

 忖度には、こちらの強い意思がないように思います。この強い意思とは、何かよいことをなそうという使命感のようなことを指します。相手を慮るだけ。カレンシーを渡すのだけれども、何のために寄越すのか、相手はわからなくて困惑する。

 ドクターX、あれは面白かった。あのドラマに「海老名教授」という人が出てきます。彼が「蛭間院長」に対して行うのが忖度。上司の顔色をうかがって上司が好きそうなことをするのですが、何のために行っているのかがよくわからない。だから院長(西田敏行、最高!)は教授を決して信用しない。重要な仕事を任せません。

 対して主人公の外科医「大門未知子」は、珍しい症例の実績と交換に患者のための手術を承認させる。これが影響力。
 未知子も相手のニーズを押さえているのだけれども、ちがうのはよい目的があるかどうか。

2018年4月21日土曜日

プレゼンテーションとカレンシーの交換

 メーカーの営業担当者を対象に、「影響力の法則 プレゼンテーション研修」を実施しました。このメーカーの業界では、市場環境の変化、競合の激化に加え、小売りの統合で流通の交渉力が高まっています。価格競争に巻き込まれないために、営業にはこれまで以上に高い付加価値の提案が求められ、知恵を使わなければなりません。

 そこで、営業担当者が「影響力の法則」を学び、営業活動の中心に「カレンシーの交換」を置くことにしたのです。

 プレゼンテーション研修と言えば、四半世紀ほど前、私たちがいつも使っているプレゼンテーションツールの日本語版を開発したプロジェクトリーダーが、プレゼンテーション研修に参加していたことを思い出します。私はそのとき初めてパワーポイントを見て驚きました。美しいカラー、アニメーション、簡単に聞き手の注意を惹くことができます。なにしろその研修はOHPを使って行っていたのです。でも彼らのプレゼンテーションははっきり言って下手でした。それが研修の終わりになると、話しの組み立てに無理がなくなり、説得力が増し、すばらしいプレゼンテーションになったのです。「これからは、こんなプレゼンが普通になるな」と思ったものです。

 それから年月がたち、"パワポ"を使うのは当たり前になりましたね。でも、小手先のテクニックの方が幅を利かせ、内容よりも華やかなプレゼンショー化しているようにも思います。プレゼンテーションの目的は、メッセージと情報を発信し、相手を動かすことに他なりません。本来の主旨から外れたプレゼンテクニックに辟易とし、プレゼンテーション研修は、何年も行っていませんでした。

 2年前、クライエントの依頼でプレゼンテーション研修を実施することになりました。このクライエントは、影響力の法則をよく理解していただいている方です。そこで影響力の法則、カレンシーの交換を軸にしたプレゼンテーション研修を行ってみたところ、これが思った以上にフィットする。カレンシーを意識してプレゼンを組み立てると、論理的で説得力が増す。スライドも、相手のカレンシーになるメッセージに絞り込むと、ずっと見やすく、インパクトが出る。果たしてこの会社は、業界全体では停滞している売上げを二桁で伸ばすことになったのです(もちろん、他に多くの変数があります。例えば、いい新製品が出たとか笑)。

 思えば、プレゼンテーションの目的は相手を動かすこと。影響力を発揮することがプレゼンテーションではありませんか!

 昨日の研修では、すべての参加者にリアルなケースを実演させ、互いにフィードバックをさせました。この時間の中で、話しの説得力は格段に高まり、「それでいこう」と言わせるものになったのです。みんなのコメントには、「カレンシーの交換で考えたことがなかったが、これなら売れる」「相手の立場を考えたら、うるさいお客も怖くない。相手も人間なんだと思った」などがありました。

 みなさんも、プレゼンテーションの計画に、「カレンシーの交換」を加えてみてください。手応えがあると思いますよ。

2018年4月19日木曜日

大きな交換

 来週の仕事に備えて、「日産のU字回復 1999年〜2001年」というケース教材を読んでいます。私は1999年当時GMにいて、同業の日産自動車が苦境に陥っているのを目の当たりにしていました。「いよいよ日産も大変だな」と同情する一方で、業界に吹き荒れる嵐に脅威を感じていたのを思い出します。おかげで日産やカルロス・ゴーン氏の関係の書籍は読みました。

 久しぶりに読むと、あらためてリーダーの力を思い知りました。日産自動車は、1999年の販売台数250万台、売上高6兆円の企業でした。現在は550万台、12兆円と、ほぼ2倍の規模に成長をとげています。日本の自動車販売市場は、1991年の777万台をピークに1999年には580万台、現在は520万台に縮小している一方、世界では5500万台(1999年)から9500万台(9500万台)に拡大している。日産も国内販売は減らしていますが、グローバルではおよそ3倍に台数を伸ばしている。1999年当時の延長には日産はなかったはず。グローバルに舵取りし、これだけの成果をあげてきた日産自動車、カルロス・ゴーン、あらためてすごいことだと感心します。

 そのマネジメントについては、いろいろ言われていますからよいとして、あらためて感心するのは高い目標に対して、従業員にコミットメントを求めて達成させてきたこと。
 初期のリバイバルプランで日産が目標として掲げたのは、購買コスト20%削減、サプライヤーの系列解体、ディーラー10%閉鎖、国内生産能力30%削減(工場閉鎖)、2万人超の人員削減、などです。厳しい現実を直視すること、問題の理解、必ず達成するという強い決意、実行、を、すべてのマネジャー、従業員に求めているのです。
 誰だって、これまでの自分の仕事を否定されるのは愉快ではありません。「君のこれまでの仕事は、まったくもって論外のレベルだ」などと言われて、穏やかではいられないでしょう。変化に抵抗する気持ちがわき起こるのは当然です。

 これまでの仲間と決別させなければならない、自分たちが築いた資産を手放させなければならない、会議には英語で臨ませなければならない。そこでリーダーが交換に差し出したカレンシーは何だったか。

 CFTと呼ばれるタスクフォースのメンバーに抜擢し、会社の重要な意思決定に関わらせる、業績給制度を取り入れる、従業員の質問に直接答える、責任は自分ひとりで負うと明言するなどが、ケースには書かれています。これらがすべて、カレンシーとして交換されています。さらに日産のもつ技術力を高く評価し、従業員に「君たちならできる」と繰り返し説く。この繰り返し伝えるという点が、カレンシーとして重要なことだと思うのです。

 多くのマネジャーは、一度はビジョンを語る。従業員を褒める。でもいつも同じことを、繰り返し何度も言う人は案外少ない。いつも同じことを言うということは、いつも同じことをしなければならない。一貫性が求められる。一貫した行動こそ信頼です。「もっと裏付けをとって来なければだめだ。君ならできる」と何度も突き返したとしても、実は部下に要求を繰り返すこと自体が、カレンシーになっていたのでしょう。

 大きな要求には、大きなカレンシーが必要になる。あらためて実感したところです。

2018年4月15日日曜日

ある編集者のすごい力

 幻冬社、という出版社が設立されたときのことを覚えています。創業を宣言する新聞広告にインパクトがあった。それから20年あまり、幻冬社の本を数え切れないほど読んできたと思います。

 その創業者が見城徹氏。この本を読んで、彼のプロフェッショナルの影響力に感服しました。

 若い見城氏が角川に入社したころ、作家石原慎太郎はまだ角川で書いたことがなかったそうです。彼は石原氏に書いてもらおうと、考えます。初めて原稿を依頼する作家の本はすべて読むのが彼のスタイルです。多くの編集者がそに作家のベストセラーしか読まないそうですから、大きな違いですね。私が書き手だったら、「先生の本はすべて読みました」という編集者を信頼します。自分の業績を理解しているというのは、大きなカレンシーになる。でも、相手の業績を理解して認める人、実際は少ないですね。

 石原氏に書いてもらうのは容易なことじゃないと感じた見城氏は、さらに大きなカレンシーを用意します。それは、石原慎太郎のベストセラー「太陽の季節」の暗唱です。丸暗記して口に出せるって、すごいですよ。よほどの思い入れがなければ、そんなことをしない。本気でなければ暗唱しないではないですか!

 これにはさすがの石原氏も、もうわかったからいいよ、と言って執筆を約束をする。すごいカレンシーの交換です!結果、その後見城氏は、角川、幻冬社を通じて石原氏に数十冊の原稿を書いてもらったそうです。

 本気で大きな結果を得たければ、これぐらいの覚悟を示す必要があるという好例です。自分にどんな応用ができるだろうか。

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2018年4月5日木曜日

自分自身への希望

 街を歩くと新入社員が目立つ今日このごろです。
 彼らを見ると、 将来にどんな希望を抱いているだろうか、と考えます。夢のある人、特に希望はないという人。彼らの時代は大きく変わっていくことでしょう。

 環境が変わっても、自分自身に対する希望は見失わないでほしいと願います。

 本当にやりたいことは、30代になって見つかるかもしれない。その時にやるべきことを実現させるように、味方を増やし影響力を高めていきましょう。それには、今から動くこと。挨拶を交わすといった小さなこともおろそかにはできません。

 約束を守る、というと簡単に聞こえますが、実際には仕事の約束を果たすのは大変なこと。多くの社会人が「約束を守れないのではないか」と苦しんでいます。

 約束を守るためには、スキル、知識を磨き、信頼できる仲間との関係を今から築き上げていくのです。やがて味方が増えれば、どうしてもやりたいこと、必ずやりとげなければならないことを、実現できるようになるでしょう。

 自分自身に対する希望は持ち続けていこう。

2018年3月5日月曜日

ドクターXと影響力(2)

    プロデューサーの仕事ぶりに感心したというのが前回のお話。いよいよドラマを観るとやはり次に注意が行くのは、主人公の影響力です。「医師免許とたたき上げのスキルが彼女の武器だ」というナレーションの通り、主人公大門未知子は他を圧倒する外科手術のスキルでやりたい仕事をことごとくものにしている。やりたい仕事は、その人の持つスキルと交換でゲットするという、まああたりまえの話ですが。

    ただ、彼女は大金に興味がなく、金よりも難しい仕事を求める。その素振りは難しい仕事に取り組むことが目的になっているように、まわりから思われるのですが、実際は当の本人は患者のことだけを考えている。それに気づいた同僚の中から彼女の味方が現れるのも面白いところです。伊東四朗演じる元上司が、「大門を見ていて自分が医者だということを思い出す」と言っています。その仕事ぶりから、院内政治に明け暮れていた院長のプロフェッショナルとしての大義を呼び起こしている。これは大きいカレンシーです。だから、かつての上司たちが、たとえ疎ましく思っても彼女を手術に呼びたがるのはわかります。

    まあ、そういういことを口で表現しないから、仲間に誤解されコンフリクトを起こすんですけどね。では、言葉で表現すればいいかというと、どうか…。孔子は言っています、「巧言令色少なし仁」って。美人でも三枚目で、手術以外は何もできない、というのが、ファンタジーの主人公としてはちょうどいいんでしょう。やり過ぎれば、ネガティブ・カレンシーになってしまうから。

2018年1月31日水曜日

ドクターXと影響力(1)

 正月は仕事を残していたので、どこかに出かけることがなく、仕事、初詣、それから空いた時間に「Doctor-X」をAmazonプライムビデオで観ていました。

 そのようなテレビドラマの存在も知らなかったのですが、新聞で見たこの番組のプロデューサー内山聖子さんは私と同世代、新卒からテレビ朝日に入社して長くドラマをつくっていたという記事を読み、同じ会社で30年あまりのキャリアを積むと影響力はどのように発揮されるのだろう、と興味をもって覗いてしまったのが始まりでした。

 結果、全部観てしまった。20%という高い視聴率を誇るのは納得です。内山氏が、長年培ってきた影響力を、このプロジェクトに注ぎ込んでいるのが感じられ感心しました。具体的には、西田敏行、遠藤憲一といった優れた俳優が、彼らの持ち味をいかんなく発揮し、それぞれの役をみごとにつくっている。この番組作りに情熱を傾けていなければできないだろう、と感じさせます。内山氏のインタビューには、主人公を演じる米倉涼子とは信頼関係で結ばれており、あうんの呼吸で仕事ができる、とありました。ここでも、プロデューサーの影響力を感じます。俳優たちの有機的なつながりが、話は荒唐無稽なのに、妙なリアリティを感じさせる。

 同年代の多くの仲間たちが、きっとこうやって仕事をしてきたのだろうと想像します。もちろんみんながそうとは限らない。「Doctor-X」を観て、キャリアとはこうありたいと思った次第です。(つづく)

2018年1月5日金曜日

働き方改革と影響力

安倍首相によると次期通常国会は、「働き方改革」国会だそうです。

このテーマ自体には関心が低かったのですが、私自身はこのテーマに対する仮説を持っています。

それは、決定力をつけること。組織の中でものごとをさっさと決め、実行に移し、結果を出すというスピードをアップすることによって、メンバーの力が発揮され、イノベーションが起こりやすくなり、活気も出る。

現実は、決める勇気がない、情報がない(勉強不足)、決めてもみんながついてこない、意見対立で決まらない、といったところでしょう。
だから日中延々と会議して、よる残業。日中上司の顔色を見て忖度することにエネルギーを費やしてしまう。

今年は「決定力」ですよ。そのためには、やはり影響力が欠かせません。同意に持ち込むか、コミットメントを得るかが、決定力の主な課題なのですから!

大相撲の世界

日本相撲協会で、貴乃花理事が解任されましたね。公益財団法人の理事として、公益をこそなうものでありふさわしくない、という理由だと言われています。

私には真相がわかりませんが、団体が異なる考え方、意見の持ち主を排除したのだとしたら、残念なことですね。組織はある程度の多様性があった方が効果を発揮する、というのが定説です。その反対をいっているのかもしれません。

報道を見ると、貴乃花は現在の相撲の問題点をつかんでおり、理事会に不満があったようです。ここ数年、頻繁に問題が発覚するというのは、貴乃花の指摘はあながち的外れでないのでしょう。一方、貴乃花が役員としての責務を果たしていないという協会の指摘も、報道を見る限り否定できません。

影響力の観点で見てみると、協会は事件の解決のために貴乃花の協力を引き出さなければならないのに、それがかなわなかった。協会側の彼に対する影響力はほとんどゼロでしたね。否定的サイクルがまわっていたのか、見えない負債が積み上がっていたのか。なんらかの形で、交換ができなかったのかと思うと残念です。

一方、貴乃花の協会に対する影響力もほとんどゼロ。本当に改革を望むなら、彼が変革できたら良かったんだけど。
どちらからかというと、私は貴乃花の方が動きやすかったと思うのです。古い組織は内外の利害関係が複雑で動きにくいけれども、個人にはいかようにも動く自由がある。理事長らと協力して変革することができるかもしれないし、多数派工作で理事長を解任することもできるはず。

もっとも、貴乃花は交換を仕掛けようともしていません。諦めているのか、他に理由があるのか。なんら影響力を発揮しなかった、ということです。結果、協会に変化はなかった。

今後どうなっていくのかわかりませんが、国民の厳しい視線の晒されたことで、悪いことは起こりにくくなった、と信じたいですね。

2018年1月4日木曜日

新年あけましておめでとうございます

「影響力の法則」は、おかげさまで10周年を迎えました。みなさんのおかげと、ありがたく思っています。

昨年は、書籍の増刷、京都大学での講演、海外での企業研修、地域活動での実践など、初めての経験もあり充実した1年でした。

昨年の事件の中には、影響力の欠如によると思われるものが散見されます。品質問題など知っていても言えない人がいたかもしれません。発言してもまわりを動かせなかったのかもしれません。命令を出す側も、決まって「品質を無視しろとは言わなかった」と言います。しかし部下には伝わっていなかったか、誤解されていたのだと思います。
つまり、上司も部下も影響力が不足していた、というのが私の認識です。

「影響力の法則」をもっと広めていくことで、企業や地域のパワーになればと思います。
このブログは、なんでも目にしたことを、我田引水的に影響力の法則で説明してしまおうというものです。ちょっとこじつけのようでもあるですが、あながちハズレでもないと思っています。お役に立てれば嬉しいです。

本年もよろしくお願いいたします。