2016年3月30日水曜日

人間ドックの面談

 先日、人間ドックで健康のチェックをしてきました。いくつかの検査はとても疲れます。それで、最後の医師との面談は、お互いにお疲れだからか、これまであまり充実した、建設的な話をした記憶がありません。
 ところが、今年は担当医と話が弾んで、長々と話をさせてもらいました。そこから得られた情報は貴重で、これからの生活で役立てそうです。なかには厳しい話もありましたが。
 なぜ、今年は色々と話せて、満足できたのか。ひょっとしたら、医師にあとを気にする予定がなかったのかもしれません。話さなければならない問題が私にあったのかもしれませんし、そもそも話好きの先生だったかもしれません。
 でも、私は小さなカレンシーが効いたんじゃないかと感じました。それは…

 面談室に招かれ入室すると、年の頃40代後半と見えたこの先生は蝶ネクタイを締めていました。蝶ネクタイ、珍しいですよね。それで
「先生、かっこいいですね。蝶ネクタイ。いつも蝶ネクタイなんですか?」
先生は、ちょっと口元を緩めました。おしゃれな方で、きっとボウタイ好きなんでしょう。
「いえ、気まぐれですよ。」
気まぐれ、とわざわざ言うのは、ホントはいつもこの格好なんでしょう。
「私もたまにはつけてみようかな」
と言ったら、やはりまた、ふっと笑ったように見えました。

 それからです、話が弾んだのは。先生は始終ご機嫌でした。

 よく、相手の服装を褒めなさい、と言いますが、それは正しいようで微妙に違うと思います。服装を褒めるのではなく、その人が大事にしていることを、こちらも大事にしてあげなければいけません。だから、本当はあまり気に入っていない服装を褒められても、嬉しくないでしょう。なかには、自分に調子を合わせる軽い態度を嫌う人もいます。カレンシーになるのは、あくまでも相手が大事にしていることを尊重することなのです。

 ところで、こちらが渡しているつもりのカレンシーが、本当にカレンシーとして機能しているかどうかは、相手の反応を見るのがいいですね。何を言うか、どんな表情をしているか注意しましょう。反応が悪かったらそれは的外れです。今回の場合は反応が良かったので、カレンシーになっているな、とわかりました。本当は、「どこで買うのか?」や「締めるのが難しくないのか?」と質問したら、それはまた効いたと思いますが、話が脱線したでしょうね。

 このケースのように、的に当たれば、小さなカレンシーでも効きます。ですから、初対面の人と早くいい仕事をしようと思ったら、小さくてもカレンシーを渡していくのがいいのですね。そのうちに、大きなカレンシーを交わせるようになると思いますよ。4月は新しい出会いの月。今月は小さなカレンシーの交換を怠りなく。

2016年3月3日木曜日

斜に構えた人

    管理職の研修など、20人ぐらいの集団を前に話すと、しばしば斜に構えた人がいます。目を合わせない、内職している、関係ない話をするなど、表現は様々ですが、話し手としては心穏やかではありません。

    先日、面白い方がいました。この方は、ある素晴らしい会社の立派な管理職の方なのですが、私が話を始めて間もなく、私の髪型が気に入らないというのです。みんなの前で、寝癖じゃないか、というわけです。こういうストレートな表現は珍しいですね。若いときはあったような気がしますが、今世紀に入って初めて経験したような気がします。
    カチン、ときました。失礼な!一瞬だと思いますが、セルフトークが頭の中を駆け巡ります。「なんだ、この物言いは!」「私がこんなことを言われる筋合いはない」「彼はここに来る資格はない」「ここでは私がすべてを決められる」「このような失礼な人は、部下や同僚から好かれていないはずだ!」「退席しろと言ってやろうか」。

    でも、問題の髪を撫でながら、少し落ち着いてきました。頭にくる理由があるのです。にわかに髪が薄くなってきて、髪のことに触れられたくない。その髪のことを指摘されたわけです。正直言って痛い!痛いところをつかれたのが、私が怒る理由だったのです。理由がわかると、少し落ちつきます。落ち着くと、まわりが心配しているのを感じました。他の参加者は、彼の発言に同意していないか、私に同情している。私には味方がいる、と感じた途端、もう一段落ち着きました。そして、このネガティブカレンシーをそのまま返さない(つまり怒ったり、嫌味を返したりせずに)で、腹に収めることにしたのです。

    すると彼は、次にこう言いました。「小さなことが気になるぐらい、ものすごく緊張しているんですよ」。
    なんという正直で、率直な表現でしょう!こんなに率直に話せるのは、少年の心を持った人に違いない!その時から、彼の参加態度は変わりました。前向きに取り組んで、ご自身の課題を見つけて、多くを学んで職場に帰らったのです。

    斜に構えている人、失礼な人の多くは、緊張している、不安である、他に心配なことがある、など、落ち着いていられない事情を抱えていることが多いものです。グレた少年少女が、家庭や人間関係の問題を抱えている(ことが多い)のと同じです。そういう人は、本人はそれとは認識していないのだけれども、ネガティブなカレンシーを振りまいている。そうして、みんなに警戒されたり、嫌われたりしているんですね。ご自身の気持ちに振り回されて、何しているかわからなくなっているだけ、のことがあるのです。自分の気持ちの問題に気づければ、この人のように前に進めることもあります。 

    みなさんのまわりの厄介な人も、他に気になることがあるか、緊張しているだけ、なのかもしれませんよ。

    私にとって良かったのは、斜に構えた管理職の失礼な発言にキレてしまわなかったことです。怒ってしまったら、今度は私がネガティブなカレンシーをぶちまけてしまい、そのあとの研修は、惨憺たるものになったでしょうから。