2016年5月5日木曜日

相手を見下す

 テレビドラマ「空飛ぶタイヤ」(2009年WOWWOW 原作:池井戸潤)をAmazonプライムビデオで観ました。このドラマは、トレーラーの欠陥を隠蔽しようとする自動車メーカーに、整備不良の濡れ衣をかけられた運送会社の社長が挑む物語です。原作者はしっかり取材したのだろうな、と思わせる見事な脚本に、人間模様を描いた演出。見応えのあるドラマでした。(今、このドラマを観たかったのは、組織は何で不正を止められないんだろうという疑問と悲しみからでした)
 このドラマには、社内の組織風土を変えようと、一所懸命努力している社員たちが出てきます。問題の拡大を防ぐよう秘密裏に動き、最後は会社の機密情報を持ち出しているのは違法行為ででしょう。でも組織に働いていてこのような正義感が発揮される様子は痛快で、ドラマのもうひとつの見どころになっていました。思わず彼らを応援したくなります。

 しかし、現実には正義感がかえって裏目に出ることもあるようです。私が過去に相談を受けたマネジャーのなかには、正しいことを押し通そうとして失敗しているケースが多々見られました。上司が彼らの話を聴こうとしない。結局相手にされずに終わってしまうのです。本当に惜しいと思います。マネジャーたちの言い分の多くは、実際正しいことが多いのですから。しかし、結局影響力を発揮できずにいて、変化を起こせていません。

 何が問題なのでしょうか?その理由のひとつは、相手を見下す態度だと思います。正しいことをいう人は、自分が正しいのだから会社や上司は私のいうことを聴くべきだ、と思っている場合が多いですね。なかには、「これがわからない上司や同僚は、みんな愚かな連中だ」、とは思っていないかもしれませんが、顔に書いてあるような態度をとる人もいます、よね!・・・それ、相手に伝わると思いませんか?この間も、彼女のいっていることは正しいのだけれども、きっと相手は馬鹿にされたと感じただろうな、というケースがありました。

 自分だけが正しい、あるいは相手より上に立とうという気持ちが少しでもあると、こうして影響力が下がる場合があるのです。

 ご自身の気持ちをチェックしてみましょう。相手は間違っていたとしても、言い分を聞いてみましょう。ちょっと余計にカレンシーを渡して、反応を見てみませんか?それだけで、話を聴いてくれるかもしれないのですから。

 自分が正しいときこそ、何かをいうのに気をつけた方が良さそうです。

2016年4月19日火曜日

相手のコストをカバーする

「同等な価値をもつカレンシーを見つけることはなかなか難しい。しかしこの方法によって、どうしても相手の利益を示せない時であっても、価値の交換が可能となる」(『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』p188)

 会社の幹部を味方につけるのがうまいマネジャーは、こちらの提案を幹部が役員会で話すための資料をつくっています。誰でもやっていると思うかもしれませんが、そのまま話せるように作り込んでいるかどうかがちがいます。
 そんな、彼らは、幹部の労力をカバーすることで、交換しているというわけですね。

2016年4月5日火曜日

メンバーに求められる役割 3

・パートナーに大きな間違いをさせない
・パートナーが悪く見えるようなことはさせない
・行動を起こす前に、必ずパートナーに必要な情報を伝える
(『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』p220)


 リーダーとフォロワーがパートナー関係であるとすると、双方がパートナーを尊重しなければなりません。そこで注意すべきが上記の3点であると、コーエン&ブラッドフォードは述べています。

 リーダーとしては足元をすくわれるのではないか、と感じると、思い切った判断ができません。でも、有能な部下に限って、これらの原則に反することがあります。例えば、勝手にチームの方針と異なる方向へ動き出してしまうこともあります。そういうリーダーの悩みを時々耳にします。

 そのような部下は、自分の方が上だということを確かめたいのかもしれませんね。でもそれは無駄どころか自分にも悪い結果が待っていることになる。チームがよい結果を出せなくなってしまいますし、組織では、そのような部下の言動はみんなが見ていますから、信頼を損なってしまい影響力が低下してしまいます。

メンバーに求められる役割 2

「マネジメントがうまくいっているかどうかを知っているのは、部下なのだ」(『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』p219)

 リーダーはある方向を示したいと思っているかもしれませんが、方向性が明確になっているかどうかをわかっているのは、フォロワーの方です。フォロワーに尋ねれば、明確かどうかはわかります。先日、ある会社の管理職を集めた席で、部門の目標は?と尋ねたところ、答えられない方が半分ぐらいいらっしゃって、一同冷や汗をかきました。でも、これが平均的な現実と思います。

 リーダーがフォロワーに依存する度合いは高まっていますから、上下関係というよりも、パートナーシップを目指そう、というのが、「影響力の法則」の提案です。

2016年4月4日月曜日

メンバーに求められる役割

「上司といえどもすべてに対応できるわけではない」(『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』p219)

 投資家、顧客の要求は強まる一方。リーダーには、目標達成への責任が重くのしかかっています。他方では社会の問題、顧客の要請、製品の品質など、課題は複雑さも高まっており、リーダーひとりで解決できるような単純な課題は少なくなっています。

 自動車メーカーの本社を訪ねたとき、開発部門の管理職クラスのリーダーの多くが機械工学専攻なのに、部下たちの多くがエレクトロニクス専攻だったのが印象的でした。事故防止、環境対策といった難題に応えるため、現在の自動車にはいくつものコンピュータが装着されており、自動車はロボット化しています。少なくともエレクトロニクスに関しては、部下の方が知識を持っています。

 それなのに、メンバーの協力的が得られなければ、身動きとれなくなってしまう。リーダーシップを発揮できなければ、チームは平凡な結果しか生み出せないでしょう。

 リーダーが何でもできる、と考えるのはやめましょう。メンバーとしてどのようにチームに貢献できるかを考え、チームの責任を共有するのが、メンバーに求められる役割です。

2016年3月30日水曜日

人間ドックの面談

 先日、人間ドックで健康のチェックをしてきました。いくつかの検査はとても疲れます。それで、最後の医師との面談は、お互いにお疲れだからか、これまであまり充実した、建設的な話をした記憶がありません。
 ところが、今年は担当医と話が弾んで、長々と話をさせてもらいました。そこから得られた情報は貴重で、これからの生活で役立てそうです。なかには厳しい話もありましたが。
 なぜ、今年は色々と話せて、満足できたのか。ひょっとしたら、医師にあとを気にする予定がなかったのかもしれません。話さなければならない問題が私にあったのかもしれませんし、そもそも話好きの先生だったかもしれません。
 でも、私は小さなカレンシーが効いたんじゃないかと感じました。それは…

 面談室に招かれ入室すると、年の頃40代後半と見えたこの先生は蝶ネクタイを締めていました。蝶ネクタイ、珍しいですよね。それで
「先生、かっこいいですね。蝶ネクタイ。いつも蝶ネクタイなんですか?」
先生は、ちょっと口元を緩めました。おしゃれな方で、きっとボウタイ好きなんでしょう。
「いえ、気まぐれですよ。」
気まぐれ、とわざわざ言うのは、ホントはいつもこの格好なんでしょう。
「私もたまにはつけてみようかな」
と言ったら、やはりまた、ふっと笑ったように見えました。

 それからです、話が弾んだのは。先生は始終ご機嫌でした。

 よく、相手の服装を褒めなさい、と言いますが、それは正しいようで微妙に違うと思います。服装を褒めるのではなく、その人が大事にしていることを、こちらも大事にしてあげなければいけません。だから、本当はあまり気に入っていない服装を褒められても、嬉しくないでしょう。なかには、自分に調子を合わせる軽い態度を嫌う人もいます。カレンシーになるのは、あくまでも相手が大事にしていることを尊重することなのです。

 ところで、こちらが渡しているつもりのカレンシーが、本当にカレンシーとして機能しているかどうかは、相手の反応を見るのがいいですね。何を言うか、どんな表情をしているか注意しましょう。反応が悪かったらそれは的外れです。今回の場合は反応が良かったので、カレンシーになっているな、とわかりました。本当は、「どこで買うのか?」や「締めるのが難しくないのか?」と質問したら、それはまた効いたと思いますが、話が脱線したでしょうね。

 このケースのように、的に当たれば、小さなカレンシーでも効きます。ですから、初対面の人と早くいい仕事をしようと思ったら、小さくてもカレンシーを渡していくのがいいのですね。そのうちに、大きなカレンシーを交わせるようになると思いますよ。4月は新しい出会いの月。今月は小さなカレンシーの交換を怠りなく。

2016年3月3日木曜日

斜に構えた人

    管理職の研修など、20人ぐらいの集団を前に話すと、しばしば斜に構えた人がいます。目を合わせない、内職している、関係ない話をするなど、表現は様々ですが、話し手としては心穏やかではありません。

    先日、面白い方がいました。この方は、ある素晴らしい会社の立派な管理職の方なのですが、私が話を始めて間もなく、私の髪型が気に入らないというのです。みんなの前で、寝癖じゃないか、というわけです。こういうストレートな表現は珍しいですね。若いときはあったような気がしますが、今世紀に入って初めて経験したような気がします。
    カチン、ときました。失礼な!一瞬だと思いますが、セルフトークが頭の中を駆け巡ります。「なんだ、この物言いは!」「私がこんなことを言われる筋合いはない」「彼はここに来る資格はない」「ここでは私がすべてを決められる」「このような失礼な人は、部下や同僚から好かれていないはずだ!」「退席しろと言ってやろうか」。

    でも、問題の髪を撫でながら、少し落ち着いてきました。頭にくる理由があるのです。にわかに髪が薄くなってきて、髪のことに触れられたくない。その髪のことを指摘されたわけです。正直言って痛い!痛いところをつかれたのが、私が怒る理由だったのです。理由がわかると、少し落ちつきます。落ち着くと、まわりが心配しているのを感じました。他の参加者は、彼の発言に同意していないか、私に同情している。私には味方がいる、と感じた途端、もう一段落ち着きました。そして、このネガティブカレンシーをそのまま返さない(つまり怒ったり、嫌味を返したりせずに)で、腹に収めることにしたのです。

    すると彼は、次にこう言いました。「小さなことが気になるぐらい、ものすごく緊張しているんですよ」。
    なんという正直で、率直な表現でしょう!こんなに率直に話せるのは、少年の心を持った人に違いない!その時から、彼の参加態度は変わりました。前向きに取り組んで、ご自身の課題を見つけて、多くを学んで職場に帰らったのです。

    斜に構えている人、失礼な人の多くは、緊張している、不安である、他に心配なことがある、など、落ち着いていられない事情を抱えていることが多いものです。グレた少年少女が、家庭や人間関係の問題を抱えている(ことが多い)のと同じです。そういう人は、本人はそれとは認識していないのだけれども、ネガティブなカレンシーを振りまいている。そうして、みんなに警戒されたり、嫌われたりしているんですね。ご自身の気持ちに振り回されて、何しているかわからなくなっているだけ、のことがあるのです。自分の気持ちの問題に気づければ、この人のように前に進めることもあります。 

    みなさんのまわりの厄介な人も、他に気になることがあるか、緊張しているだけ、なのかもしれませんよ。

    私にとって良かったのは、斜に構えた管理職の失礼な発言にキレてしまわなかったことです。怒ってしまったら、今度は私がネガティブなカレンシーをぶちまけてしまい、そのあとの研修は、惨憺たるものになったでしょうから。

2016年2月29日月曜日

ある友人の大きな一歩

 10年来サポートしてきている友人(で私の先生です)が、ひとつの目標を果たされました。この方は、「影響力の法則」を忠実に実行していただいたと言えるので、感慨ひとしおです。

 「影響力の法則」の読者のなかには、よい結果を出している方が大勢いらっしゃる一方で、必ずしもみなさんがそうではありません。最後までやり遂げないのです。彼は今日までずっと「カレンシーの交換」に取り組んでいる読者のひとりです。なぜ彼がこの目標を達成したか。昨日からずっと考えています。それはひとことで言えばご本人のひたむきな努力の賜です。ですがいくつか気づいたことがあるので、記しておきましょう。

 まず、苦境に立ったときに、自分にできることに集中したこと。すなわち、苦境にあっても、周囲を味方につけるべく「カレンシーの交換」に集中されたことです。苦しいときに、他者のために動けるというのは、その人の一貫した態度、行動を示します。この一貫性が信頼につながります。信頼とは「この人には裏切られないという確信」です。この方の努力によって、組織内に彼に対する信頼が生まれ、任せてよいという確信になったのだと思います。

 次いで、やはり苦境に立ったときに、感情的にならなかったことがあげられます。苦しい状況を他者の責にしたくなるものですが、そのときに、他者でも自分でもない、状況そのものの問題である、と考え、どうしたら変化を及ぼせるかに集中できました。彼はその点でもご自身をコントロールできたと思います。私や他の友人が励まし続けたのも、いくらか役だったかもしれません。

 この方がご自身の感情の動きに正直に向き合ったこともあげましょう。心穏やかでなくなると、しばしばご本人から電話をかけてきました。それで、私はしばらく愚痴を聴くのです。そうして話をすることで、自分自身のいやな感情から目を背けなかったのは、実は大きいと思います。上述した感情のコントロールにも効果を生んだと思います。

 また、誰に何を言われようと積み上げてきた仕事と努力の結果、会社の最大の苦境を救う力がついていたことは見逃せません。会社はある一件で厳しい状況に置かれ、幹部はおおいに慌てます。そのときに、問題を解決できたのが彼だけだったのです。いざという時、カレンシーがあったわけです。今の努力は、いつ報われるかわかりません。これは神仏の計らいだ、としか思えないようなタイミングでくるものですね。

 さらに、私が感服したのは、この10年にわたる過程の中で(実際は私と知り合う前から30年ぐらい)、彼がご自身の使命を見いだしていったことです。苦しくなるほどに、私たちは苦しみに意味を見いださなければ耐えられないものです。彼は、この苦境を乗り越えることが、ご自身の成熟につながるというだけでなく、歴史の中で大きな意味を持っていると気づかれたようでした。そのストーリーが明らかになるほど、感情のコントロールや、厄介な関係者とのカレンシーの交換を可能にしていったように思います。


 ふと、布施、忍辱、精進、禅定という言葉が思い出されました。いずれも仏教のことばで悟りにいたる取り組みを示します。布施は分け与えること、忍辱は他者の攻撃に耐えること、禅定は一点に集中して心の平安を保つこと、精進は努力することです。これに、自戒(戒律を守ること)が加わり、智慧すなわち悟りにいたるのです。カレンシーの交換が、このプロセスに通じることが再認識できました。私自身、自らの取り組みに確信が持てたことは、ありがたい機会でした。

 この友人には、さらに大きな機会が待っています。誘惑も多いと思います。でも、これまでの取り組みを続けられる限り、長く語り継がれる歴史的な成果を上げられることと思います。これからも応援していけることをうれしく思っています。

 昨夜は彼と1時間ほど話をしたあと、ひとり祝杯をあげました。

2016年2月5日金曜日

チームの形成

 優れた結果を出しているリーダーは、ステークホルダーを味方につけている、というのが、本稿の前提です。どんなに優れたミッションも、関係者が動かなければ変化をもたらせません。社内のプロジェクトでも、客先での案件でも、効果を出すには、現場で動く人たちが変わらなければならない、それにはプロジェクトのステークホルダー、この場合メンバー以外の、例えば現場のマネジャー、従業員、顧客などに影響をおよぼさなければ、半端な成果しかあがらないことがほとんどです。

 そこで、カレンシーを誰とどう交換するかが問われるわけです。

 ステークホルダーを味方につけるためには、日ごろから「カレンシー」を意識しているかどうかが大きいと感じますね。

 例えば、ある営業部門のマネジャーは、社内報で新しい研究案件を見つけると、本社とは離れた事業所にある基礎研究所に足を運んでいました。そうして、情報収集を怠らず、いざという時に研究所長の協力を得られて、他社にはない抜きん出た提案ができていました。

 でも、案外みなさんやりません。このケース、単に情報収集しているだけではありません。本社から話を聞きに来るマネジャーがいたら、それだけで地方の研究所のメンバーは嬉しいはずです。聴きに行くこと自体が、大きなカレンシーになるのです。私があった大規模のプロジェクトのリーダーは、みなさん、離れた事業所に話を聴きに行っていました。でも、案外みなさんやりません。

 逆に、自分の思う結果にならない時に、嫌な顔をしてしまう人は損していると思います。特に別れ際。気をつけなくては。

「・・・というわけで、人員を増やしていただきたいんです」
「いや、今はそれは無理だよ。今の人材でなんとかしてくれ」
「へえ、そうですか。でもどうなっても知りませんよ」

のような乱暴な反応をする人は普通いませんが、個人的には会ったことはあります。これは嫌な感じです。こいつのために、リソースを投入するのは凄くリスクがある、と感じさせませんか。私だったら、次のチャンスが遠のいたな、と思うな。ネガティヴなカレンシーでしょう。

 メンバー以外のステークホルダーがどう協力してくれるかは、プロジェクトの成否を握りますよ。特に別れ際には気をつけましょう。気持ちよく別れましょう。