ジャレド・ダイヤモンド著「ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか」(2010, 『歴史は実験できるのか』慶應義塾大学出版局2018所収)はおもしろかった。2つの国とはハイチとドミニカです。
写真を見てください。
左右のどちらに緑が多いか、右でしょう?右がドミニカ、左がハイチです。ご存じのようにハイチは世界最貧国のひとつです(ひとりあたりGDPは820ドル)。国家は水、電気、下水処理、教育といった基本的なサービスを国民に提供できません。東日本大震災の前年、ハイチも大地震に見舞われましたが、政府機関の建物の多くが倒壊したために、未だに復旧ほど遠い状態です。対してドミニカは、まだ発展途上にあるとは言え(ひとりあたりGDPは5900ドル)、ひとりあたりの平均収入はハイチの6倍。アボカドの生産は世界第3位。森林の28%が保存されており、世界で最も自然保護が進んだ国のひとつだそうです。驚きました。野球が盛んでメジャーリーガーを多く輩出しています。
両国を比較すると、人口はどちらも1000万人強とそれほど違いませんが、ハイチの労働者の数はドミニカの五分の一、車の保有台数も五分の一、高等教育を受けた国民七分の一、医者の数は八分の一、ひとりあたりの医療費は十七分の一、エイズやマラリアの罹患者数はハイチが数倍多いなど、大きな差がついています。
19世紀まではむしろハイチの方が豊かでした。ハイチがドミニカを支配していたときもあります。ところが、フランス、イギリスの植民地から解放されたあとが異なります。20世紀、どちらの国も独裁者が支配します。ドミニカの支配者は、実は強欲で自分の私腹を肥やすことにしか興味がありませんでした、財産を殖やすためなら、ためならどんな手段でもとります。海外からの助言や投資を拒むこともありませんでした。そのなかに、森林資源を勝手に荒らされないための取り組みもありました。スウェーデンから森林保護の専門家を招いてさえいます。森林資源をコントロールするためです。明らかに自分の利益のため。でもこういうことが結果的にはよかったんですね。ドミニカの国民福祉は世界の平均よりは下回っているかもしれないけれども、最悪ではない。対してハイチの独裁者は、無制限に開発を許してしまいます。それで国土が一面丸坊主になってしまった。結果、洪水は起こる、高潮にやられるなど、大きな自然災害の問題が今でも続いているのだそうです。国民はずっと苦難を強いられています。
もともとどちらの国も奴隷貿易の中継地点でしたが、ハイチの方が奴隷貿易では稼いでいました。それがハイチの不幸です。宗主国のフランスが撤退したあと、無法地帯になってしまいます。英語やフランス語を話せる人も少ない(独自のクオール語が発展)。そのうえ、植民地時代に何度もヨーロッパ人に騙されてきたという思いがあるために、海外からの投資や助言を受け入れなかった。
言葉の問題、歴史的な経緯から、海外からの「影響を受けなかった」ことが、結果的に国土を荒廃させ、国民を貧しくしてきたハイチ。現在では産業もなく国際社会での影響力は気の毒なほど弱くなっています。対して私利私欲のためとはいえ、外部からの影響を受けてきたドミニカ。少なくともベースボールの世界では超一流、影響力を獲得してきたようです。両者の関係は200年を経て逆転、さらに拡大しています。
関係構築にかたくなな姿勢は、結局繁栄にはつながらないようです。興味深いところです。
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