2015年3月3日火曜日

サム・ウォルトンの10カ条

   サム・ウォルトンは、「ウォルマート」の創業者です。すでに、1992年に73歳で他界しており、私には伝説の人物という印象です。「ウォルマート」社は世界最大の小売業者で、世界最大の株式会社。売り上げは約80兆円、従業員は220万人ですから、例えばトヨタやGMと比べても大きい組織です。日本では西友がウォルマートですね。

   この創業者の自伝「私のウォルマート商法」(講談社+α文庫)を読んでいるんですが、これがおもしろい。商人のあるべき姿を実践してきた人なんだろうと、思わされます。そんな話が、日本語の文庫で400ページにもなりますから、読み応えもあります。

   その自伝の最後の章に、成功のための10カ条」というのがあります。その中のいくつかは、経営者が部下や顧客、取引先との間で交わす「カレンシーの交換」そのものでした。
   以下がその各項です。

法則2 「利益をすべて従業員と分かち合いなさい」
金銭による報酬そのものよりも、「パートナーとして遇する」点を強調しているのにうなづきます。

法則3 「パートナーの意欲を引き出しなさい」
様々な刺激を与えること。競争や目標、点数をつけるなど。

法則4「パートナーと情報を共有しなさい」
社内の情報は、取引先企業には常に価値あるもの。思い切って共有しようということです。

法則5「誰かが会社のためになることをしたら、惜しみなく賞賛しなさい」
金銭だけではダメだと言っています。賞賛され感謝されるのが、部下にとっては大事だと。重要なポイントをついています。

法則6 「成功を祝い、失敗の中にユーモアを見つけなさい」
うまくいかないときは、馬鹿げた衣装を着て歌を歌うといい。みんなも歌いだすから。リラックスすることが大事ということですね。

法則7 「すべての従業員の意見に耳を傾けなさい」
組織の末端から責任と改善策をわき上がらせるには、話を聞かなければならないということです。ごもっともです。

法則8 「お客の期待を超えなさい」
そうすれば、お客は戻ってくる。そして問題があっても、言い訳してはいけないと。そんなことをしては、ネガティブカレンシーの応酬になりますからね。

    書いてあることは、あたりまえのことばかり。でもこのまま真似してもうまくいかないことが多いんじゃないでしょうか。ですから、みなさん一様に言われます。「理屈ではわかるけど、うまくいかないね」

   忘れてはならないのは、これらはウォルトンたちの長年の積み重ねのうちに実現したものだということです。小さな交換から、さまざまな交換を繰り返しているうちに、今のように繁栄するようになったんだろう、というのが、本書を読んでの感想です。

2015年2月18日水曜日

外部のリソースを巻き込む

    業界のリーディングカンパニーに勤務する女性リーダーにお話を伺う機会がありました。話してみると、明晰で有能な方という印象です。ふたりの子のお母さんでもあります。
    これまでにも優れた業績を上げてきているのですが、それらの仕事は、幼い子供たちに説明するのが難しい仕事だったので、これからは消費者に直接インパクトのある仕事をして、子供達にも話してあげたいのだと伺いました。今は、新しい分野に挑戦しているとのことですが、その希望をかなえて欲しいと思います。

   気になったのは、新しい分野に挑戦しようとしているのに、社外のリソースを取り込もうとしていないこと。同業、異業種を問わず外部のネットワークが少ないし、関連する学会にも入っていない。仕事と家庭の両輪をまわすのに精一杯なのかもしれません。

   でも、新しい分野に挑むときこそ、異分野の知識と知恵が必要ですから、人材の多様性が求められるものです。社内にはない視点を持つメンバーを、公式、非公式に巻き込めれば、それが彼女の「チーム」です。

   そして、そのような人材を惹きつけられるかどうかは、どんな「カレンシーの交換」を実現するか、にかかっているわけです。

   話を終えた彼女は表情も明るくなり、きっとお子さんたちに誇れる仕事をやり遂げるに違いない、と思いました。

2015年1月21日水曜日

厳しく温かい

    京都にある「松下資料館」を訪ね、PHPの渡邊編集長にご案内いただきました。見せていただいた資料に、松下幸之助の部下だった方たち(パナソニックグループの幹部)の、幸之助氏についての経験と思い出です。数人の幸之助談はみな共通していて、「怒ると血の気が引くほど恐ろしい。でもそのあと必ず配慮を感じること」でした。
    みなさんが同じような話をされるのは、そんな経験をくぐってきた人たちだから、幹部になったとも言えるし、期待した人たちだからそのような経験をしたとも言えます。明らかに「血の気が引く経験をして学んだことがあった」ようです。

    ここで思い出したのは、以前勤務したアメリカ系企業の社長が、"我が社は「厳しく温かい」会社だ"と言っていたこと。世の中には甘い上司が大勢いて、彼らはいざという時部下に冷たい。私はそんな会社を目指しているわけではない。私は厳しい、でも温かい、と言うのです。なるほど、厳しい水準を要求する方で、でも部下はついていた。結果、彼がトップだったときはずっと業績が良かったのです。

    「厳しい要求と、温かい配慮」は上司と部下の間で交わされる、基本的なカレンシーの交換です。優れた上司は、要求しているが、部下を尊重する。でも、今話をしているマネジャーたちは、要求しないか、配慮がないか、です。

    部下と交換されているカレンシーは、十分か?チェックしてみてはいかがでしょうか。

    ご案内いただいた渡邊編集長に、感謝します。

2015年1月1日木曜日

問題を認めること

    混み合った夕刻の東京行きの飛行機の機内で。
    私は、ようやく席にたどり着き、着席しようとしていました。そこに、強面の少し太ったお兄さんがやってきて、「そこ、違いますよ」と不機嫌そうに言います。急いで自分の座席と座席番号を確認。ああ、ひとつずれていたんですね。そして、「すみません」とわび、「私が間違えました」といいました。
    するとどうでしょう。その強面の男が、にっこり笑ったんです。とても満足そうでした。その反応に、私も笑顔を返したのはいうまでもありません。
    この時、私が感じたことは、「私が間違えました」のひとことが、相手の心に変化を生んだということです。おもしろいな、と思いました。彼は、私がわびたことではなく、間違えを認めたことに彼が反応したのですから。

    考えてみると、平謝りするくせに誠意が感じられない人は、本当は間違いを認めていない、と相手に感じさせてしまいます。本心は違うなと感じれば、信用しません。結果、相手はカレンシーを受け取ろうとしないでしょう。対して、間違いを認める人からは誠意が感じられます。また、間違いから学ぶので次は間違わないだろうと思われます。(そして、事実、間違いがなくなる確率が高まります)そういう態度をとると交換しやすく、よい関係が築けるでしょう。

     新年を迎え、あらためて、自分の問題や間違いに正直でありたいと思いました。そして、1年、より豊かな交換を通して、与えられた役割を果たしていこうと決意しました。

     本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

2014年12月25日木曜日

気付いてあげること

   クリスマスの朝、羽田空港に着くと航空会社の職員のみなさんが、サンタクロースの帽子をかぶっている。ところが、搭乗口まで来ると今度は誰も帽子をかぶっていない。それで、スタッフに「ここでは帽子をかぶらないのですか?」と尋ねました。すると「あれは、外(搭乗手続きのカウンター)だけなんですとの答え。そういうことか。
   彼女続けていわく「でも、今日はみんな青のブラウスに統一しているんです。洗濯もローテーションに注意して、揃えました。気付いていただきありがとうございます。

   些細なことでも、気付いてもらって嬉しい、と感じることがあると、改めて実感。これで1日楽しく過ごせるなら、いいじゃないですか。

   メリークリスマス。良い1日を。

2014年9月1日月曜日

週末の(あるいは月末の)学習

    週末に、藤沢武夫「経営に終わりはない」、ジム・コリンズ「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」を読み返し、米林監督「思い出のマーニー」をみて思ったこと。

    それは、使命をなんと認識しているか、とならんで、ディテールを詰めることで生みだされる価値。そのためには、妥協しない規律と、誰もが目的のために知恵を絞り口出しするのが欠かせないということ。改めて強く認識しました。

    よい1週間をすごしましょう!

2014年4月2日水曜日

価値観を優先するか、結果を優先するか

必要なのは相手から協力を引き出す働きかけであって、自分が価値観を置くものを相手に押しつけることではない。自分の価値観や信念を貫き通すのか、それとも相手を動かすのか。(『影響力の法則〜現代社会を生き抜くバイブル』2005 デビッド・ブラッドフォード&アラン・コーエン 税務経理協会  p130)

    先日、あるメーカーの研究開発部門のマネジャーと、お話ししました。最近は海外の子会社や協力会社と協業で、開発プロジェクトを進めることが多くなっているそうです。それだけ、製品は複雑さを増し、顧客の要求は厳しく、それにもかかわらず組織は身軽になっているのでしょう。社外の能力に依存せざるをえません。

    その彼が、アメリカの子会社のマネジャーと一緒にやっていく難しさについて、話してくれました。彼らは彼らの見解や提案を強力に主張してくる。それで、こちらは言葉を挟む間もないと。そうこうしているうちに、先方の主張が通ってしまい、日本に不利な条件になってしまうと言うのです。
    この話をしてくれた日本のマネジャーは、疲れた様子で、彼らとの会議は気が重い、と言っていました。アメリカのエリートたちは、自分の主張を決して翻さない。彼らは頑固だ。ここで良い成果を上げたら、他社により良い条件で採用されるので、結果を出すことしか考えていない。だから、こちらの主張が通らないのは仕方ないし、どうしようもない。でも、彼らがやっていることは間違っている、と言うのです。

    私には、彼が苦労しているのがよく感じられました。同時にこれは品質上の問題になるんじゃないか、市場に受け入れられず失敗するだろう、と心配になりました。こんなことをくりかえしているのかもしれないな、それでは、会社の業績にも悪い影響が出るなあ。

   ここには、二つの問題があると思います。まず、アメリカ側のマネジャーが日本の状況を理解しようとせず、彼らの主張を押し付けるため、彼らの日本に対する影響力が発揮されていない点。日本側は抵抗しているので、積極的な関与を引き出せずにいます。日本は「仕方ないからやるか。でもうまくいくはずがない」という感じです。
    もう一つの問題は、日本側が「アメリカの連中は自分のことしか考えていない。それは会社員として間違っている。」と考えていること。日本のマネジャーは、一見なにも主張していませんが、心の中では会社では同僚の話を聞き同調すべきだと叫び、自分とは異なる考えを誤りと決めつけています。なぜ、彼らが頑なになっているのか理解しようとせず、個人の問題(自分の利益しか考えない)としている。つまり、自分の価値観を相手に押し付けている点で、アメリカのマネジャーと実はそう変わらないのです。

    こちらの目標は、相手がこちらの意見に耳を傾け、双方が歩み寄れる解決策を導き出すことでしょう。そう考えたら、こちらにできることは、相手が主張する本当の理由を理解しようと努め、一方でこちらが言わなければならないことを、相手にきちんと主張することです。相手が声高に主張するようなとき、多くの場合、こちらも相手を理解していません。こちらが相手を理解するようにすれば、レシプロシティが働き相手も歩み寄る可能性が出てくる。少なくとも、諦めているよりは、良い結果になるはずです。