2010年にコーエン、ブラッドフォード「Power Up 責任共有のリーダーシップ」(髙嶋&髙嶋訳 税務経理協会 原題 Power Up Transforming OrganizationThrough Shared Leadership)を出しました。これはシェアードリーダーシップ(共有型リーダーシップ)の実践について、日本で初めて紹介された本だと思います(当時慶應義塾大学ビジネススクールの髙木晴夫先生にそのように言ってもらいました)。シェアードリーダーシップとは、みんながリーダーシップを発揮して、難局に取り組むリーダーシップのアプローチです。したがって、リーダーの課題はメンバーにもリーダーシップを発揮させることになります。
その中で、リーダーの意思決定について4類型が紹介されています。単独型(Autonomy)、協議型(Consultative)、共同型(Joint)、委任型(Delegated)です。これらは状況に応じて適切に使い分けることが必要だと、本書には書かれています。他の意思決定関係の著書でも大体同じようなことが言われていると思います。
日本では、ウィルソンラーニング社の
「LFG 成長にリーダーシップ」と、私の会社(
インフルエンス・テクノロジーLLC)が提供する「ビジョン・ドリブン・チーム」で、"Power Up"の実践を学べます。私は10年あまりにわたって、これらのコースを、ビジネスや非営利事業の現場のリーダー、トップマネジメントに提供してきました。その経験からいくつかのことを学ぶことができました。
どの意思決定方法が難しいかと聞くと、多くの方は「共同型」だといいます。「異なる意見をまとめられない」「時間がかかりすぎる」「意見を言わない若手が多い」などと聞いてきました。
この決定方法では、「関係者が意思決定に納得」して決めす。この方法の利点は、答えがない問いに対して、さまざまな専門家が関与することで取り組めるようになることと、関係者が納得しているから、実行のレベルが高まる点にあります(いわゆる「モチベーションが高い」のは、私が見るところ多くの場合、納得していることを指しています)。この方法が重要になってきているのは、新しい課題が次々に押し寄せるようになったことと、問題が複雑になり、さまざまな立場から人々が参加するようになっていること。
新しい課題、複雑な課題には、一部の経験者だけでは解決できません。過去の経験が役立つならそれでもいいのですが、今までにない問題を解決しなければならないときには、過去の経験が邪魔をすることすらあります。その代わりに、異なる分野の専門家の知見が必要になります。でもそんな専門家が集まると、意見が分かれます(クルーズ船の対応で専門家が乗り込んだためにかえって混乱したことがありました)。なかなか決まらない。急がなければならないので、異論を排除しなければならなくなる。一部の(あるいは多くの)人にとっては、納得できないままに物事が決まってしまう。みんなが納得していないと、いざ実行段階に入って機敏に動かない。納得していない人たちは、人ごとだと思うから、どこか他人任せで当事者意識が低いわけです。結果、遅れや品質の問題が起こります(日本の開発の現場にはとても多いように思います)。だったら、一部の人で決めてしまった方がいい・・・ こういうジレンマに陥るというのが、コーエン先生とブラッドフォード先生の問題意識です。
そこで考えたいのは、納得という言葉です。
私は多くの方に誤解があると思います。納得というのはみんなが同じ考えになることだと思っている人が多い。でもそれはちがいます。
納得とは、同じ目標に向かって、複数の側面から物事を検討し、現時点での解に合意することです。
考えは違ってもいいのです。価値観が異なってもいい。でも、ある目標に対して、関係者が見ている現実を持ち寄って、可能性を検討し、そのなかからより現実的な解をつくっていく。
「わかった、今はそれでいきましょう」「あなたが考えていることも、重要なのはわかっている。だからこの先の状況を見てもう一度検討します。それでいいですか?」「わかりました。あなたの決定を尊重します。でもこの先の変化に注意していきましょう」というようなやりとりがあって、意見が異なる人もそのときの決定にコミットできるようにする。
ところが、現場で起こっていることは、みんなが同じ考えになるまで話し合おうとして(無理です)、延々と時間を無駄にするか、途中から(あるいは最初から)異論のある人を排除して、一部のメンバーで決めてしまうか。だから多くの人が難しいと感じているんだと思います。
こんなことをまた書いているのも、感染症対策のさまざまな意思決定がどのように行われているかを想像するからです。私は今回の新しい課題に対して、刻々と状況が変化していくなかで、早く決定する、柔軟に変化することが重要でしょう。そこで鍵になっているのは、納得して動くこと、納得させることです。
報道を見た印象では、当初は混乱していたのが、さまざまな専門家が機能するようになってきているのかな、と思います。厚労省の関係者は、多くの専門家に直接電話して意見を求めているに違いありません(あくまでも想像です)。電話が来た人は話せただけでもいくらかなりとも納得する(たぶん)。
一方、多くの市民がいまだに夜毎に居酒屋でストレスを発散しているところを見聞きすると、はやく国民を当事者として巻き込む必要があると思います。要するに、外出してはいけないと納得させる必要があるということです。現状では、国民のほとんどはまだ他人ごとだと思います。外出自粛なんて納得していない。
でも納得していれば、欧米の都市のようにより強力な都市封鎖にも協力するはずです。それで政権崩壊にはならないでしょう。特別国債を発行して日銀に買わせても、文句を言わないでしょう(それで200兆円ぐらいの支援策を捻出してほしいです。そうしないと、来年の生活崩壊が怖くて仕事を休めません)。もっと納得できるだけの情報を提供するべきだと思うし、一方国民はメッセージに耳を傾けるなければなりません。「好き嫌い」は横に置いて。
なんで、こうなってしまうのか。これを読んで勉強します。