東海道山陽新幹線の台車破断事件は、ひとつまちがえば脱線につながっていたとわかり、衝撃を与えています。異音や異臭に気づいていたのに、小倉から名古屋まで走行させてこと、乗務員は新大阪で引き継ぎをする際に(JR西日本からJR東海に替わる)異常なしと伝えていたことなど、何が起こっていたかがわかってきました。異常が検知されてから走行続行を判断したのは、「保全担当の社員、車掌、指令」であったと報道されています。
この報道を見て、思い出したことがあります。かなり以前に別の鉄道運輸会社の方に伺ったお話です。鉄道の現場では安全運行のために一定部分は自動化が進んでおり、例えば運行停止装置があり、事故があれば自動的に停止するようになっている。でも多くは運転士、車掌がいる列車の現場と、現場から離れた場所にいる指令が連携し動かしているのだそうです。200km/h超で走る特急列車の運転士の経験者は、非常に視野が狭まるので極度の緊張感にさらされると打ち明けてくれました。ですから、今回のような異常があっても、運転士が走行可否の判断に加わっていないのは不思議ではないと思います。
その会社ではトラブルがあった場合の現場での判断のほとんどは、指令が出しているそうです。指令本部に情報を集めて決める、つまりトップダウンです。何かの事故があったとき指令にあがってくるデータと車掌からの情報で判断するというのです。それを聞いて、ああ何時間も列車に閉じ込められてしまう人が出るのは無理もない、と思いました。現場を見ているわけでもない指令が、伝え聞いた限られた情報だけで判断するわけです。情報の断片を集めるのに時間がかかり、安全のリスクを下げようと様々な可能性を検討するのにまた時間がかかる。鉄道会社は安全を第一義としており、それがくまなく徹底していますから、より安全な措置をとるべく時間をかけているのを、とても遅いとかなんとか文句を言うのは気の毒だ、と思ったものです。
ところがそこに面白い運転士がいました。彼らとの懇親会の席で、ある指令とその運転士が、「初めまして、ああ、あなたが・・・」などと言っている。長いキャリアの中で、運転士と指令はほとんど会うことがないのですね。そこでその指令が言うのには、その運転士に何度も救われていると言う。それは現場から上がってくる情報が、非常に正確で緻密、それも運行システムにかなった情報なので、早くよい判断ができる。おかげで事故やトラブルがあっても、その運転士が現場にいたために何度も早期復旧にこぎ着けることができたのだ、という話です。そんなことは、どこでも起こっているのかと思ったら、とても珍しいのだそうです。
何が違うのか。今度は運転士に聞いてみると、彼は本当に鉄道が好きな男で、運転士になった。けれどもそれに飽き足らず、会社の運行方針やさらには運転士にはそこまで求められていないレベルの運行システムの知識まで独学で勉強した。どこがどうなると、列車が動かせない、何をしたら安全に問題がないなど、広範な地域の路線の多くを頭の中にたたき込んでいる、と明かしてくれたのです。だから、安全な運行の復旧に何が必要かはかなりの部分を理解しているのだそうです。
その彼から指令に上がる情報は、他の運転士、車掌とは違う、判断に必要な情報があると言っていました。運転士の指示に従って、指令を出したことがあるとも。すごい影響力です。ともするとトップダウンになりがちな、運輸会社の運行管理。でも現場からの影響力のおかげで、より質の高い意思決定が行われることがあるのです。
彼(この運転士)の場合は、システムの全体を理解していたことがカギを握っていました。私たちのチームでも同じことが言えるはずです。メンバーにシステムの全体を理解させることが、チーム内の双方向の影響力を高めます。でも必ずしも今のチームはそうなっていませんね。メンバーの役割に関する情報しか与えない。だから、復旧に時間がかかっていることも多いでしょう。
情報共有が進み、安全や品質、顧客満足、コストの削減など、多くの結果を得ることにつながると期待できます。今のチームの状況はどうでしょう。もっと情報を共有しメンバーの影響力を高めたほうがいいかもしれませんよ。
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