2015年10月20日火曜日

されどアイコンタクト

 ある会社の会議に陪席して、リーダーの会議進行の指導をさせていただいています。

 先日のあるマネジャーの会議運営は、工夫に富んでいて、いいなと思いました。参加者の発言を引き出すために、質問する、意見を求めるなどが効果を生んでいると思いました。

 でもそんな努力を無にしてしまう、彼の対応のまずさも感じました。
 それは、アイコンタクトです。

 何かを発言しようとするたびに、視線が下に行ってしまう。そして、そのまま左下の方を見て、部下の発言にコメントするのです。部下は、そんな彼の対応を知っているのだと思うのですが、彼の顔を見ないで話を聞いている。これは、理解していない、納得していないなという感じです。

 私は、アイコンタクトが重要だと聞かされてきたし、そう感じていますが、この日は久しぶりに再認識させられました。相手に及ぼすインパクトがアイコンタクトで左右されるのは、やはり本当だなと。

 なぜ、彼は相手を見ないで話したのでしょう。おそらく自信がなかったのだと思います。部下の状況を十分に理解していないし、自分のアドバイスが効果的かどうかも、本当はわからない。でも上司だからアドバイスしなければ、と無理していたのではないでしょうか。そのような自信のなさは、部下に伝わります。だから、部下も話半分で聞いている。

 アイコンタクトのことを、このマネジャーにフィードバックしました。すると、本人は自分が視線を相手から逸らせていることに気付いていませんでした。さらに、自分が部下よりも現場をわからないのは当然だ。だからわかっているかのように振る舞ってはいけない。むしろ、部下の報告から状況を理解してどう対応するかを一緒に考えよう、と提案。そのとき、このマネジャーの顔から少し安堵の表情が浮かんだのを感じました。

 その後、このマネジャーは、話すとき、話を聞くときは、相手の顔を見るようにしているそうです。その効果かどうかわかりませんが、少なくとも「会議が活性化してきた」、との報告を受けました。

 意見の交換には、アイコンタクトの交換が欠かせないと実感。たかがアイコンタクト、されどアイコンタクトですね。
(この写真は、記事の登場人物とは全く関係がありません。この人は発言者の話を真剣に聞いているように見えます。力が入りすぎているように見えるぐらいです)

2015年10月12日月曜日

ベテランを黙らせた若いマネージャー

 先日、ある会社の会議に陪席させてもらいました。会議がどの程度効果的に活用されているかを観察し、アドバイスするのが目的です。チームのリーダーとは、目標を設定し、リーダーがいかに会議をリードするか、どこで介入するかなどもあらかじめ打ち合わせました。会議では数人のメンバーが、各々の計画を話します。他のメンバーが意見を言って、チーム全体の行動計画を決めるのが目標です。

 リーダーの司会進行で会議は始まりました。メンバーのそれぞれが話をして他のメンバーが意見をいい、建設的な雰囲気で話が進んでいきます。会議もなかばを過ぎ、あるベテランのマネジャーが自分の計画を発表する順番になりました。話を聞くと、彼の担当する分野には明らかな問題がありました。でも問題があることを率直には説明できないため、どうしても言い訳がましくなります。すると、ますます問題があるのに本人が認めたくないように聞こえます。会議の出席者も、そのように感じているらしく、重苦しい雰囲気に包まれてきました。他のメンバーは、全員彼より若く、社歴も短い。リーダー自身も彼より若いのです。率直に意見を述べづらい雰囲気です。

 それでも、勇気のある若い担当者何人かから発言がありした。
「・・・した方がいいんじゃないですか?」
「・・・という方法もあると思うんですが?」
 それぞれ悪くない意見だと思いますが、ベテランの彼は、それらの意見に耳を貸しません。ことごとく「それは・・・だから無理」「そんなことは検討した。うまくいかない」と、切り捨てるのです。すると、発言したメンバーだけでなく他のメンバーも下を向いて黙ってしまう。ますます重苦しい雰囲気が広がります。それだけではなく、なぜか若手の発言を切り捨てるたびに、ベテランは胸を張り大きく見えるようになっていく。何も問題が解決していないのに、勝ち誇ったように見えるのです。彼にとっては、この会議を乗り越えること自体が問題だったのかもしれません。(外部の人間である私が、後ろで陪席していたのも一因でしょう)

 そこに、別の若手マネジャー(彼も会議の参加者で、リーダーを除けば他のメンバーはフラットな関係です)が、発言しました。
「・・・というやり方は、○○さん(ベテランのマネジャー)の目標達成のためにはよくないんじゃないかな。・・・に注意して、・・・に取り組んだ方がいいと思う。その方が、○○さんのためになりますよ」
 この表現に、ベテランのマネジャーは、少し動揺して見えました。でも、やはりそれは簡単じゃない、とか反論します。対して若手のマネジャーは、
「私は見ているわけじゃないからはっきり分からないけど、○○さんのためには、・・・の方がいいと思います」と繰り返します。
 二度三度このようなやりとりがあり、ベテランは黙りました。自分が投影しているスライドに目をやり、手元の資料に目を落とし、なにやら書き込んだのです。若手の意見に初めて耳を傾けたようでした。

 年功序列が崩れたとはいえ、組織では年長者に従い、発言は遠慮するという風土が今も続いています。多くのマネジャーが、年長の部下の扱いに悩んでいます。プロジェクトには、ベテランの専門家や、かつての上司までが紛れ込んでおり、プロジェクトリーダーを悩ませることがしばしばあります。しかし、課題への要求は厳しく複雑で、全員の力を必要としています。一人の力を引き出せないと、リーダー自身がその役割を引き受けなければならなくなってしまう。若いリーダーが彼らをチームメンバーとして機能させられなければならない状況です。若いリーダーのベテランに対する影響力は欠かせません。

 私は、この若いマネジャーの影響力に感心しました。この若いマネジャーのやり方は参考になります。

 キーワードは、「・・・・の方が、○○さんのためになる」です。同じ内容でも、自分のためになると感じたときに、提案はカレンシーになります。ただ、主張するだけでは、それは意見を言っているだけで、相手の心に届きません。他の若手に対して、この若手マネジャーは、「○○さんのためになる」と繰り返すことで、ベテランマネジャーの現状に対する見方を変えたのだと思います。彼は、若いマネジャーから「カレンシー」を受け取ったからです。このカレンシーの積み重ねが、人を動かします。だから、簡単に引き下がってはいけないなあ。


 「カレンシーの交換」には、ベテランも若手も関係ないのだと、あらためて思いました。

(写真は、東京都墨田区にある「セイコーミュージアム」に展示された17世紀清朝時代の日時計。見事に復元されています。セイコーホールディングスグループも清朝も日時計も本文とはまったく関係がありませんが、この博物館は時間の歴史を知るのにすばらしく、訪ねる価値あります。http://museum.seiko.co.jp/index.html)