2016年2月29日月曜日

ある友人の大きな一歩

 10年来サポートしてきている友人(で私の先生です)が、ひとつの目標を果たされました。この方は、「影響力の法則」を忠実に実行していただいたと言えるので、感慨ひとしおです。

 「影響力の法則」の読者のなかには、よい結果を出している方が大勢いらっしゃる一方で、必ずしもみなさんがそうではありません。最後までやり遂げないのです。彼は今日までずっと「カレンシーの交換」に取り組んでいる読者のひとりです。なぜ彼がこの目標を達成したか。昨日からずっと考えています。それはひとことで言えばご本人のひたむきな努力の賜です。ですがいくつか気づいたことがあるので、記しておきましょう。

 まず、苦境に立ったときに、自分にできることに集中したこと。すなわち、苦境にあっても、周囲を味方につけるべく「カレンシーの交換」に集中されたことです。苦しいときに、他者のために動けるというのは、その人の一貫した態度、行動を示します。この一貫性が信頼につながります。信頼とは「この人には裏切られないという確信」です。この方の努力によって、組織内に彼に対する信頼が生まれ、任せてよいという確信になったのだと思います。

 次いで、やはり苦境に立ったときに、感情的にならなかったことがあげられます。苦しい状況を他者の責にしたくなるものですが、そのときに、他者でも自分でもない、状況そのものの問題である、と考え、どうしたら変化を及ぼせるかに集中できました。彼はその点でもご自身をコントロールできたと思います。私や他の友人が励まし続けたのも、いくらか役だったかもしれません。

 この方がご自身の感情の動きに正直に向き合ったこともあげましょう。心穏やかでなくなると、しばしばご本人から電話をかけてきました。それで、私はしばらく愚痴を聴くのです。そうして話をすることで、自分自身のいやな感情から目を背けなかったのは、実は大きいと思います。上述した感情のコントロールにも効果を生んだと思います。

 また、誰に何を言われようと積み上げてきた仕事と努力の結果、会社の最大の苦境を救う力がついていたことは見逃せません。会社はある一件で厳しい状況に置かれ、幹部はおおいに慌てます。そのときに、問題を解決できたのが彼だけだったのです。いざという時、カレンシーがあったわけです。今の努力は、いつ報われるかわかりません。これは神仏の計らいだ、としか思えないようなタイミングでくるものですね。

 さらに、私が感服したのは、この10年にわたる過程の中で(実際は私と知り合う前から30年ぐらい)、彼がご自身の使命を見いだしていったことです。苦しくなるほどに、私たちは苦しみに意味を見いださなければ耐えられないものです。彼は、この苦境を乗り越えることが、ご自身の成熟につながるというだけでなく、歴史の中で大きな意味を持っていると気づかれたようでした。そのストーリーが明らかになるほど、感情のコントロールや、厄介な関係者とのカレンシーの交換を可能にしていったように思います。


 ふと、布施、忍辱、精進、禅定という言葉が思い出されました。いずれも仏教のことばで悟りにいたる取り組みを示します。布施は分け与えること、忍辱は他者の攻撃に耐えること、禅定は一点に集中して心の平安を保つこと、精進は努力することです。これに、自戒(戒律を守ること)が加わり、智慧すなわち悟りにいたるのです。カレンシーの交換が、このプロセスに通じることが再認識できました。私自身、自らの取り組みに確信が持てたことは、ありがたい機会でした。

 この友人には、さらに大きな機会が待っています。誘惑も多いと思います。でも、これまでの取り組みを続けられる限り、長く語り継がれる歴史的な成果を上げられることと思います。これからも応援していけることをうれしく思っています。

 昨夜は彼と1時間ほど話をしたあと、ひとり祝杯をあげました。

2016年2月5日金曜日

チームの形成

 優れた結果を出しているリーダーは、ステークホルダーを味方につけている、というのが、本稿の前提です。どんなに優れたミッションも、関係者が動かなければ変化をもたらせません。社内のプロジェクトでも、客先での案件でも、効果を出すには、現場で動く人たちが変わらなければならない、それにはプロジェクトのステークホルダー、この場合メンバー以外の、例えば現場のマネジャー、従業員、顧客などに影響をおよぼさなければ、半端な成果しかあがらないことがほとんどです。

 そこで、カレンシーを誰とどう交換するかが問われるわけです。

 ステークホルダーを味方につけるためには、日ごろから「カレンシー」を意識しているかどうかが大きいと感じますね。

 例えば、ある営業部門のマネジャーは、社内報で新しい研究案件を見つけると、本社とは離れた事業所にある基礎研究所に足を運んでいました。そうして、情報収集を怠らず、いざという時に研究所長の協力を得られて、他社にはない抜きん出た提案ができていました。

 でも、案外みなさんやりません。このケース、単に情報収集しているだけではありません。本社から話を聞きに来るマネジャーがいたら、それだけで地方の研究所のメンバーは嬉しいはずです。聴きに行くこと自体が、大きなカレンシーになるのです。私があった大規模のプロジェクトのリーダーは、みなさん、離れた事業所に話を聴きに行っていました。でも、案外みなさんやりません。

 逆に、自分の思う結果にならない時に、嫌な顔をしてしまう人は損していると思います。特に別れ際。気をつけなくては。

「・・・というわけで、人員を増やしていただきたいんです」
「いや、今はそれは無理だよ。今の人材でなんとかしてくれ」
「へえ、そうですか。でもどうなっても知りませんよ」

のような乱暴な反応をする人は普通いませんが、個人的には会ったことはあります。これは嫌な感じです。こいつのために、リソースを投入するのは凄くリスクがある、と感じさせませんか。私だったら、次のチャンスが遠のいたな、と思うな。ネガティヴなカレンシーでしょう。

 メンバー以外のステークホルダーがどう協力してくれるかは、プロジェクトの成否を握りますよ。特に別れ際には気をつけましょう。気持ちよく別れましょう。