2013年6月9日日曜日

伝統工芸的組織

   先日、ある自動車メーカーの汎用エンジンの開発技術者の方とお話しました。汎用エンジンというのは、モーターボートの動力や発電機などを指します。こういうエンジニアの方とお話するのは楽しい。製品に対する思い入れが感じられるからです。

   市場の動向など、いくらか会話を交わしたあと、「製品開発のプロジェクトは大変じゃありませんか?」と尋ねてみました。すると、この人は何を聞くんだろう、という表情。そこで「いえ、プロジェクトにはいろいろな部門から、様々なバックグラウンドの人達が入ってくるので、すり合わせが大変だと言いますよね」と付け加えると、その若いエンジニアは、私の質問の意味がわかったらしく笑いながら「それは、4輪は大変ですよ」と答えてくれました。「4輪(乗用車)は、何百人も関わりますからね、会社の経営に大きな影響を及ぼします。みんな大変だって言ってますねえ」という。「でも、私がやっている仕事は、もっと簡単なんですよ。モデルチェンジのサイクルが長いし、競合も少ないし。そのうえ、同じメンバー数人で何年もやっていて、お互い気心知れていますから、ずっとラクなんですよ」

   確かに、変化が少なく比較的単純なプロジェクトでは、経験者のほうが業界、技術のことをよく知っています。ですから、リーダー→メンバーの上意下達で多くの状況を動かすことができ、チームとしての機能はそれほど必要ないと言われています。典型的な例は、伝統工芸や伝統芸能です。師匠の仕事を再現するのが弟子の役目です。
   一方、複雑な製品を開発している、変化が早い市場を相手にしている、競争が厳しい、といった条件下では、リーダーはメンバーの技術、情報、コミットメントに頼らなければなりません。自動車開発のプロジェクトリーダーのほとんどが40代で機械工学専攻、メンバーの多くはエレクトロニクス専攻なのが一例です。自動車に興味が無い若者もメンバーに紛れ込んでいますが、彼らの能力が発揮されないと、自動車のような3万点と言われる膨大な部品からなりたつ製品は完成しません。このような条件下では、チームリーダーシップなくして事業は成り立ちません。

   さて、自分が関わる事業は、比較的単純な製品を扱う、競合が厳しくなく変化が少ないか、あるいは、製品が高度に進化している、競合が厳しい、変化が激しいなどが見られるか。多くの事業は、伝統工芸ではいられないと思うのですが、いかがでしょうか。

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